2019年11月28日、富津岬にてアングラーが流されて亡くなるという事故が起こってしまいました…
今回、この事故に遭われた方の関係者様とやり取りする機会が出来たため、もう二度とこのような悲しい事が起こらないよう、事故の概要と安全対策についてお話して行きたいと思います。
本記事を読んで抱く感想は様々だと思いますが、決して故人を非難する意図の物ではありません。あくまで、今後二度と事故が起こらない事を願っての物とご理解ください…
富津岬にウェーディング行かれる方は、必ずお読みいただくようお願い申し上げます。
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富津岬というフィールドの危険性
東京湾の中央付近、房総半島の内側に大きく突出した岬が富津岬です。
岬の先端付近から第一海堡まで浅瀬が伸び、岬の北側では豊富なベイトを育むアマモが繁茂し、シーバス以外にも様々な魚種を狙うことが出来る人気フィールドになっています。
近年ではYouTubeなどのメディアにより、誰にでも手軽に情報発信が出来るようになったおかげで、訪れるアングラーも急激に増えたと感じます。
しかし、残念な事にウェーディングによる事故の話もよく耳にするようになりました…
富津岬は、浦賀水道と呼ばれる東京湾の一番狭い海域にあります。そのため、流れが集約する岬の先端付近では海流が非常に早く、しかも複雑な潮の流れを形成しているのが特徴です。
Googleマップの画像からも、その速い流れを感じることができる
その流れは大潮時の湾奥大河川の下げ潮の勢いをも凌ぐ程で、流れの集中する場所では逆らって歩く事が出来なくなる場合すらあります。
また、周囲に風を遮る物も無いため波が立ちやすく、潮の流れと同調すれば更に速い海流を生みます。
広大な砂地であることから「干潟」と呼ばれてはいますが、むしろ巨大な川だと形容したほうがしっくり来るかもしれません。
近年、ショップ主催の初心者向けウェーディング講習会も頻繁に開催されているようですが、本来なら、富津岬は初心者が決して足を踏み入れてはならない危険な場所です。
講習会には、プロアングラーなどのインストラクターが同行しているかと思いますが、「初心者向け講習会やってる位だから大丈夫なんじゃね?」という印象を生んでいるのではないかと危惧しています…
この場所を熟知したエキスパートアングラーですら、少しの油断が命取りになる…。一般的イメージの干潟と思って安易に入水する事は、絶対にしないでほしいのです。
ほんの少し…そう、ただ一歩だけでも判断を誤っただけで、それが一体どのような結果を生む事になるのか…
実際に起きた事故を例に挙げて説明していきたいと思います。
富津岬での死亡事故について
2019年11月28日に起きてしまった水難死亡事故に関して、第三者ながら詳細を知る事になってしまった経緯と、その概要と考察についてお話していきたいと思います。
この事故について知る事となった経緯
その日、富津岬に釣りに行っていた友人から「海難事故が起きている」という連絡…
注意喚起のためにTwitterに投稿したところ、事故に遭われた方とご関係のある方から「まだ見つかっておらず、事故当時の状況について何か少しでも知っていることは無いか?」という旨のDMをいただきました。
友人に電話し状況を聞いたところ、事故に遭われた方と入水前に最後に話しをしたのが友人だった事が判明…
その状況を、ご関係者様にお伝えする等やり取りをさせていただいている間に、残念ながらご遺体となって発見されたとのご報告をいただきました。
故人との面識は無く、第三者ではありますが、その後のやり取りも含め事故の詳細について知る事となってしまったため、事故の再発防止のために少しでも力になれないかと考え、本記事を書くに至った次第です。
事故の概要
ご関係者様とご遺族からの情報、友人の話から当時の状況をまとめます。
正直なところ、人が亡くなっている事故について詳細を書くことに戸惑いはありました。しかし、詳しく知る事で、よりリアルにその恐ろしさを感じ、理解していただけるのではないかと思います…
なお、又聞きの情報である事で不正確な部分もあるかもしれませんし、ご遺族への配慮から意図的に伏せている部分もあります事をご了承ください。
入水前の会話と事故当時の状況
友人が現地に到着したのがPM8時30分過ぎ頃。車を停めたのが、このたび事故に遭われたA氏(仮)の車の隣でした。
A氏との面識は無かったものの、声を掛け近況などの情報交換(いわゆる釣り人の井戸端会議的な)を交わす。たまたまA氏と同じ地域から遠征に来ている事もあって意気投合し、A氏の名前を知ることに。
拘りを感じさせるA氏の装備に、富津は今季4回目と話していたのもあり、熟練者という印象…。友人がトイレに行っている間に既に準備は終了し、「それではお先に」と入水して行ったとのこと。
この時、友人がいつも入水しているルートとは異なる場所から入って行ったのが少し気がかりに感じたそう…。ただ、「慣れた人だろうし、他にルートがあるんだろうな…」と思い準備を進め、21時頃に友人も続いて入水。
友人が入水した時には、既にA氏のフラッシャーはかなり沖に光っていた。そして、入水時にはかなりの強風によって加速した流れを感じ、進む事を躊躇した程だった。
30分程水中にいたものの、「これは釣りにならない」と判断して撤退。陸地に戻る前には既に救助隊が到着し、現場は騒然とした状態になっていた。
本人による110番通報
友人が入水した頃には既にA氏本人から110番に「深みにはまり、流されている」という通報(PM9時5分頃)があったそうです。
友人が、行方不明となっている方の名前を確認したところ、A氏である事が判明し「あの時話をした人だ…」と思い返して愕然…
現場は救助のヘリを待っている様子だったが、できる事も無いために友人は帰宅することに。
捜索状況について
本人からの110番通報によって、PM9時30分頃(推測)より海上保安署との連携による捜索活動が始まったと思われます。
A氏とは、当初電話により通話出来る状態だったものの、やがて電波が途切れる事に…
1時間ほどして再び繋がったが、風が強すぎて話にならなかったとのこと。
そして、AM1時40分頃に第二海堡西側の海域で、木更津海上保安署によってA氏が発見されたが、間も無く亡くなられた事が確認された。
事故当時の富津岬の海況と事故原因
富津岬でのウェーディングでは、岬の先端付近から第一海堡に向けて伸びる瀬が主なポイントとなっており、その瀬に乗って釣りをするのが一般的です。
そして、その瀬と陸地との間にスリット(深くなっている部分)があり、そこを通過してポイントへと向かうのですが、そのスリットは瀬と陸地に挟まれて集約された強い流れが発生する場所です。
当時のタイドグラフを見ると、大潮の下げで富津岬の潮位は+80cm程度。
通常なら入水が可能な潮位ですが、風速10mを超えるような北よりの強風が吹き、ただでさえ早い大潮の下げの流れを押して相当な速さの流れになっていたと思われます。
そして、友人が目撃した情報からの推測になりますが、A氏が入ったと思われる入水地点…
近年まではメジャーなルートでしたが、富津岬は強い海流の影響で地形が大きく変化しやすく、最近は内陸寄りの方が浅くなっていた…
おそらく、最初のスリットを越えられずに流されたと思われます…
潮位を考えると、それでも通過出来る場所だったとは思いますが、普段ただでさえ速い流れが当日の風によって激流となり、足を取られる事になってしまったのではないかと考えます。
あと数メートル上流から入っていたら…とも思いますが、それ以前に当日の風速を考えたら、「入らない」という判断をするべきだったと思います。
救助が困難な状況だった…?
A氏が通報した先が110番だった事で、初動の遅れがあったのかもしれません…(海難事故は、海上保安庁118番)
もしかしたら必死で押した番号だったかもしれませんし、iPhoneの緊急自動通報先が110番だったのかもしれません…
そして、風が吹けば必ず波が立ちます。流された後も通話は出来たようですが、風で会話が出来る状態ではなかったとの事。
現在地を把握していたにもかかわらず救助することが出来なかったのも、荒れた海面で発見することが困難だったのではないかと考えられます。
さらには、5℃を下回る気温…体力はあっという間に奪われていった事が想像できます…
自然の力の恐ろしさ
千葉日報報道の記事によると、A氏が発見されたのは第二海堡の西側海域とのこと。関係者の方からは、「横須賀方面で…」と聞いておりましたので、実際には第二海堡西側と言っても、かなり三浦半島寄りだったかと思います。
そうなると、事故発生から4時間半程度で5km~8km程も流された事に…
富津岬周辺の海流がいかに速いのか、そして、自然の力がいかに恐ろしいかという事がわかるかと思います。
安全にウェーディングを楽しむために
この事故の概要を知って「恐いな…」と思った方は、正常だと思います。
事故を確実に防ぐには、そもそも「ウェーディングをやらない事」です。しかし、魚がいたら釣りたくなるのが釣り人の性というもの…
どうしたら安全に釣りを楽しむことが出来るのかを考えていきましょう。
装備の再確認
どこの釣り場でもそうですが、適切な装備で挑む事は最低限の常識です。
具体的な物を挙げると
- フローティングベスト(非膨張式の物)
- スマホの防水ケース
- フラッシャーの使用
- 防水仕様のライト
- ナイフ
- ウェーディングステッキ
この辺りは最低限の常識として身につけておきましょう。
フローティングベストは言わずもがなですが、スマホは流された時の最後の命綱になります。防水対策と、入水前には必ずフル充電状態にしておくことが大切です。防水ライトも、真っ暗な海で救助隊に発見してもらう可能性を高めます。SOS点滅機能付の物だとベストです。
膝下くらいの水位だったはずが、突然顔まで駆け上がって来るような波を被る事もあるので、レインウェアは必ずウェーダーの外に着用し、波による浸水を防ぎましょう。
万が一完全にウェーダー内に浸水するような事があれば、水の重みと抵抗で動けなくなります。そのための最後の手段として、よく切れるナイフを所持しておき、いざとなったらウェーダーを切って排水させることで、いくらか動きやすくなります。
また、iOS11以降のiPhoneには緊急SOS発信機能があるので知っておいて下さい。緊急連絡先を追加しておけば、自動的な緊急電話の後にテキストメッセージの通知と、現在地が更新される度に最新の情報が発信され続けます。
救助要請をかけるような事態にならないようにする事がマストですが、万が一の際は躊躇なく通報を。海の事故は海上保安庁(118番)と覚えておいて下さい!
今回の事故では、A氏は適切な装備品で対策をしており、そして、現在地の把握ができていた事から、おそらくiPhoneの緊急SOSも使用していたのではないかと思います。
それでも、命を守ることが出来なかった…
しかし、装備がしっかりしていたからこそ助かったというケースも多く存在します。
これだけ対策していても、確実に生命の安全を保証出来るという物ではないということを認識しつつ、一方で、少しでも助かる可能性を上げるために、出来る事は全てやっておくという事が大切です。
決して自然を甘く見ないこと
最近は、WIndyや海快晴など良い気象情報アプリがあります。これらから、細かく風と波の予報をチェックし、強風時や波が高い時、うねりが入っているような時は絶対に避けて下さい。
また、予報は基本的に悪い方に外れると予測し、マージンをしっかり残しておくことが大切です。
風速6mを超える時は、富津釣行は候補から外すべきと思います。
Windyだと、こんな状況なら絶対に入ってはいけません
また、雨の日は視界が悪くなり、帰る方向がわからなくなります。やめておきましょう。
そして、沖まで出た方は必ず干潮時間30分前にはアラームをセットしておき、アラームが鳴ったら例えどんなに釣れていても撤退を開始するようにして下さい。思いがけず早くに上げの流れが入ってくる事もあり、その流れは前に進めなくなる程です…
「限界領域で釣りをしてる俺、なんかカッコよくね?」という勘違いや、釣れているからと言って「ちょっと波被る位いいや」とか「これ位なら行けんじゃね?」と甘く見ることが命取りになります。
そう、「ほんの少し」間違えただけで、二度とその間違いをリカバリーすることができなくなるのが富津岬です。
安全の手本となる行動をとることができ、釣りたい欲に打ち勝つ強さを持った人こそが上級者であり、「かっこいいアングラー」だと僕は思います。
富津は常に死と隣合わせの場所
初めての場合は、必ずこの場所を熟知したアングラーと同行して下さい。ウェーディング自体には慣れているという方でも、富津が初めてなら安易に入る事はやめてほしいのです…
急に1m位落ちる足場の悪いブレイクや、上げ潮が入ると戻れなくなる場所が存在します。ちょっとした海面の変化などから、ある程度は地形や流れを読める力も求められます。
そして、それでも予測のつかない複雑な海流や、遥か沖を大型船が通過した時などに時間差で大波がやってくる事もあります。少しの油断で足を取られてそのまま流される事も…。時に、一般的なセオリーなど意味を成さなくなるのが富津岬です。
経験者であっても、できれば単独釣行は避けて欲しい…。行く時は必ず誰かに伝え、緊急時に対処してもらえるようにしておいて下さい。なんなら、遺書も書いておく位の気持ちで…
そして、一度通ったルートを確実に引き返せるよう、GPSで通った場所を記録出来るアプリを使うといいと思います。僕は、FishingGPSというアプリを使用しています。
また、複数人での釣行時こそ油断しやすいので注意が必要です。日本人は特に周りに流されやすい性質です。「皆と一緒だから…」と、無理をしてスリットを渡ろうとしたり、遅くまで戻らず沖に取り残されてしまう事故がとても多いです。
複数人での釣行時は、声の届く間隔で行動をする事や、例え熟練者同士であってもGoogleマップで常時現在地を共有するなどして、常にお互いの状況を把握しあいながら行動するように心がけてください。
まとめ
この記事を読んで、きっと様々な感想を抱かれる事と思います。
「故人に対する冒涜だ」とか、「遺族への配慮が足りない」とか、「何度も富津行ってるけど大したことないよ。大げさな…」という人もいるかもしれませんし、いろいろ思われる事は承知の上です。
僕がこの記事を書いたのは、ただ「二度と事故が起こってほしくない…」それだけです。
Twitter上で「大好きな釣りをしながら死ねたら本望じゃないか」という考えの人も目にしましたが、事故の結果命を落とす事になれば、必ず悲しむ人が出てきます。事故に遭われたA氏にも、まだ小さなお子さんがいらっしゃったそうです…
事故当日は、職場の方から「流されるなよ!」というように言われていたとも聞いています。「自分は大丈夫」という根拠の無い考えを持っている事は何より危険です…
そして、頻繁に事故が起これば、やがて「危険だから」という理由で立ち入りを禁止される事にもつながります。
遺された家族や友人、そしてあのフィールドを愛する人々…多くの人を悲しませる事になる…。
重ね重ねになりますが、どうか自身の経験や力量を過信せず、自制心をしっかりと保っての行動をお願いします。
故人のご冥福をお祈りすると共に、二度と事故が起こらない事を願っております…
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